排卵誘発について
一般不妊治療について
排卵誘発剤投与とは
排卵誘発剤を用いて卵胞(卵子)を発育させ、排卵を促す方法を排卵誘発法といいます。通常は排卵障害のある患者様に行いますが、妊娠率を上げるために正常排卵周期を有している患者様にも行うことがあります。人工授精や体外受精では排卵誘発法を併用することによって妊娠率が上がりますので、当院の人工授精や体外受精では、排卵誘発法を併用することがあります。
排卵誘発剤の種類
大きく分けると卵子を育てるための薬(下記の1、2)と排卵を促す薬(3、4)に分けられます。
- 1.クロミフェン製剤(クロミッドなど)
- 脳の下垂体に作用して間接的に卵巣を刺激する飲み薬です。そのため、作用が比較的弱く副作用もほとんどありません。
- 2.ゴナドトロピン製剤(ゴナールF、レコベル、HMGなど)
- 卵巣に直接作用するタイプの注射薬です。そのため量や回数によっては非常に強力で、多胎や卵巣過剰刺激症候群にもなりやすくなります。
- 3.hCG製剤(オビドレルなど)
- 上記の卵子を育てる薬ではなく、排卵を促す注射です。hCGを投与すると約36-38時間後に排卵します。
- 4.GnRHアゴニスト製剤(プレセリン点鼻薬、ナファレリンなど)
- 脳の下垂体に作用し、間接的に排卵を促す点鼻薬です。hCGと同様の使い方をします。長期間使用すると、逆に排卵を抑える作用があり、体外受精時に排卵を抑えるために使用することもあります。
- 5.GnRHアンタゴニスト製剤(セトロタイドなど)
- 脳の下垂体の機能を一時的に抑える注射です。体外受精時に排卵を抑えるために使用します。
排卵誘発剤を投与した場合
排卵誘発剤投与のリスク
世界的にも広く使われており、非常に安全な薬剤の一つですが、以下にあげるいくつかの副作用があります。
- 1.多胎率の増加
- 多胎とは双子、三つ子以上となった妊娠のことです。通常自然排卵周期では一つしか排卵しませんので自然妊娠のほとんどは単胎となります(自然妊娠でも一卵性の多胎や自然に二つ以上排卵し多胎となることはあります)。排卵誘発剤を使うと2つ以上排卵することが多くなるので当然多胎率は高くなります。自然妊娠でも1%は多胎となりますが、クロミフェンによる多胎率は約4-5%、ゴナドトロピンによる多胎率は約15-20%とされています。
双子はかわいいものですが、やはり早産などの周産期リスクはかなり高くなり、当院での出産は原則できません。また出産後の育児負担も相当なものです。
当院では排卵させる前に発育した卵胞数をモニターし、あまり多くの排卵が予想される場合はその周期をキャンセルする場合もあります。それでも多胎の発生を完全に防ぐことはできません。どうしても心配なら体外受精をお勧めします。体外受精であれば戻す胚の数を一つにすれば多胎になることはないからです。(ただし1卵性多胎を除く) - 2.卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
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排卵誘発法が向上しており現在ではほとんど見られなくなりましたが、やはりゼロにすることはできません。クロミフェンでは通常は起こりませんが、ゴナドトロピンでは起こることがあります。特に体外受精では大量に投与が必要になることがありますので注意が必要です。若年、やせ型、多嚢胞性卵巣症候群などではリスクが高くなります。両側の卵巣が腫れあがり、血管の中の水分が卵巣から浸み出し、腹腔内にたまってしまいます(腹水)。すると血管内は脱水となり、血液がどろどろとなって血栓ができやすくなります。血栓症という状態になり、ひどくなると肺梗塞や脳梗塞など命にかかわることもあります。また妊娠するとさらに重症化します。重症化が予想される場合はその周期では人工授精や胚移植などがキャンセルとなることがあります。また重症化した場合は入院点滴治療が必要となることがあります。
その他アレルギー反応などは通常の薬剤と同程度の頻度で起こります。また排卵誘発剤によってできた赤ちゃんだからといって、赤ちゃんに異常が出ることはありません。
排卵誘発剤投与を実施しない場合
当院の人工授精は自然周期法を原則としておりますが、排卵誘発法を併用した時に比べて妊娠率は多少低くなります。また体外受精の場合は採卵数が減ったり、卵子がとれなくなる可能性が少し高くなります。
自然周期でも人工授精や体外受精は可能ですが、上記の理由で妊娠率が低くなってしまいます。
同意書の撤回について
同意書をいただいた後でも、同意を撤回することはできます。その場合は担当医と、よくご相談ください。また、同意をしなくても、今後の当院での治療において不利益を受けることは一切ありません。
不同意の場合の治療の継続について
排卵誘発剤投与を実施することに同意できない場合は、担当医と今後の治療方法などについて、もう一度よくご相談ください。
緊急時の対応について
排卵誘発剤投与の実施中に、予期せぬ事態が発生した場合は、担当医が最善の対処を致します。処置内容などについては担当医の判断にお任せください。
質問の機会について
説明された内容についてわからないことがある場合は、ご遠慮なく担当医に質問をしてください。同意書をいただいたあとでも、質問することはできます。
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