男性不妊症について
男性不妊症について
1.男性不妊症とは
正常な夫婦生活を送っているにもかかわらず2年以上妊娠できないカップルのことを不妊症といいます。このなかで男性側に原因があるものを男性不妊症と呼びます。
当院では男性不妊外来を開設しております。
- 木曜日:
- 月1回
- 土曜日:
- 不定期
いずれも不定期となります。
お電話にてお問い合わせください。
2.男性不妊症の原因
1. 造精機能障害
精巣(睾丸)の機能異常により精子を作り出せない状態のことをいいます。
- a. 先天性造精機能障害
- 造精機能障害の多くは先天的です。精子がまったくいない無精子症の原因となる染色体異常の代表的な疾患に、クラインフェルター症候群があげられます。正常男性の性染色体はXYの2本なのですが、クラインフェルター症候群ではXXYとX染色体が1本多くなっています。また、無精子症の患者様にはY染色体の一部分(AZF領域)が欠失している場合が10~20%見つかります。
- b. 精索静脈瘤
- 精巣上部に流れる精索静脈の異常肥大のことです。正常男性の15%、男性不妊症の患者様の40%にみられます。精索静脈瘤があると、お腹から逆流した温かい血液が精巣(睾丸)の温度を上昇させ、精子を作る働きに悪影響をおよぼすと考えられています。
- c. 停留精巣(睾丸)、精巣炎
- 停留精巣、成人になってからのによる精巣炎などにより精子数や運動性が低下する場合があります。
- d. 精巣がん・精巣腫瘍、抗がん薬や放射線治療によるもの
- 精巣がん・精巣腫瘍でも不妊症になるため、注意が必要です。さらに白血病や悪性リンパ腫などのがんで、放射線や抗がん薬の治療を受けると精子数が低下したり無精子症になったりすることがあります。
- e. 下垂体疾患
- 脳の中にある下垂体というホルモンを産生する臓器の疾患などにより精巣を刺激する下垂体ホルモン(黄体化ホルモン:LH、卵胞刺激ホルモン:FSH)が分泌されない場合、不妊症となります。
2. 精路通過障害
精巣(睾丸)で精子が作られているのに、射精するまでの経路に異常があり精子が尿道まで出てこられない状態のことをいいます。
- a. 先天性精路通過障害
- 先天的な精巣上体、精嚢腺、前立腺の欠損あるいは奇形などがある場合には尿道まで精子が出てこられなくなることがあります。
- b. 逆行性射精
- 逆行性射精とは、勃起して射精はするのですが、精液が膀胱に逆流するため尿道から射出されない病気です。糖尿病などによる神経障害が原因となることもあります。このため、射精感はあるものの、精液がまったく出ないか、非常に少なくなります。無精子症と間違えられることもあります。
- c. 鼠径ヘルニア、精管結紮術(パイプカット)手術後
- 幼少時に鼠径ヘルニアの手術を受けた人では手術部位に精管が走行しているため、これが塞がってしまう場合があります。精管結紮術(パイプカット)後も無精子症になります。
3. 精子機能障害
女性側に抗精子抗体などがあると、女性の体内に侵入した精子を攻撃して運動率や授精能が低下させてしまう場合があります。ただし、抗精子抗体が陽性でも自然に妊娠できる方もいます。
4. 性機能(性交)障害
勃起障害・射精障害(ED:Erectile Dysfunction)のことです。性交を行うのに十分な勃起が得られないことをいいます。男性が排卵日に計画的に夫婦生活を持つことにストレスを感じておこることが多いとされています。 EDの患者様は20歳代前半から80歳代までの幅広い年齢層に渡っており、50歳以上になると40%以上の方がEDになるという報告もあります。その患者数は全国で約900万人いるとされ、男性不妊症の原因の約20%がEDともいわれています。 性交障害は女性側に原因があることもあります。また、極端な早漏や遅漏も不妊の原因になります。
3.男性不妊症の検査
- 1. 精液検査
- 痛みを伴う検査ではありません。3-7日間禁欲していただき、マスターベーションで専用の容器に精液を採取していただくだけです。 当院内の専用のお部屋(完全防音の採精室)で採取していただいてもよいですし、自宅で採取してもらい3時間以内に持参・提出してもらっても結構です。
料金は初診料含め1,180円(増税の関係で20円値上がりしました(保険診療))です。保険証を必ずお持ちください。精液検査受付時間は診療時間と異なりますのでご注意ください。
木・金・土曜日:お時間の詳細は、予約時にご確認ください。
(完全予約制となります。WEB予約にて事前予約をしてください)
※検査結果は後日再診時となります。精液検査結果のみかた
- 精液量
- 射精された精液全体の量です。1.5cc以上あれば正常です。
- 精子濃度
- 精子の数です。精液1ccあたりに対し、精子が何匹いるかをみます。精子は数が多いので10の6乗であらわすことが多いです。正常は15X10^6(1,500万) 匹/cc以上です。
- 運動率
- 精子の元気度です。すべての精子のうち、何%の精子が元気に動いているかをみます。40%以上動いていれば正常です。
- 奇形率
- 精子の形をみます。精子は、数が多いので形が悪い精子(奇形精子)がある一定の割合でできてしまいます。原則、奇形精子は受精することができません。また、赤ちゃんの奇形とは全く関係ありません。すべての精子のうち、奇形精子の割合をみます。30%以下であれば問題ありません。
すべての運動精子数(精液量X精子濃度X運動率)により、ある程度の治療方針を決定できます。精液検査の結果は、同一人物でもかなりばらつきもあるため一概に決定することは出来ません。以下は大まかな目安と考えてください。
運動精子数(精液量 X 精子濃度 X 運動率) 2,000万以上 タイミング療法 1,000-2,000万 人工授精 500-1,000万 体外受精 500万未満 顕微授精 - 乏精子症:
- 精子濃度が正常値以下の状態
- 無精子症:
- 精子が1匹もいないかそれに近い状態
- 精子無力症:
- 精子はいるのですが、動きが弱かったり全く動いていない状態
- 奇形精子症:
- 奇形率が正常以上に多い状態
(実際には上記が組み合わされて症状が出ることが多いです)
無精子症について
正常男性の100人に1人、男性不妊症の患者様の中は5人に1人が無精子症であるとされています。精液を遠心分離して精液を濃縮しても精子が見つからなければ無精子症と診断されますが、少なくとも2回は精液検査を行い確認する必要があります。 また、無精子症には、造精機能障害により精巣内の精子の数が極端に少ない非閉塞性無精子症と、精路通過障害など精子の通り道が詰まっている閉塞性無精子症があります。
- 2. 精巣(睾丸)などの視診・触診
- 左右の精巣の有無、大きさ、硬さを調べます。正常な精巣は長径3~4cmのラグビーボール型です。
精索静脈瘤がある場合、精巣の上方に青黒く軟らかい静脈が透けて見えることもあります。
恥骨部から鼠径部にヘルニアの手術創があるかどうかも確認します。 - 3. 超音波検査
- 精子の通り道である精巣上体、精管、精嚢腺、前立腺、尿道の超音波検査などを行います。
精索静脈瘤などの診断もできることがあります。 - 4. ホルモン検査
- 血液中の男性ホルモン、下垂体ホルモンなどを検査します。下垂体ホルモンが低い場合精子を作り出すことができなくなります(造精機能障害)。
一方、精巣自体の機能に異常がある(先天性造精機能障害など)場合、逆に下垂体ホルモンが上昇することがあります。 - 5. 染色体検査、精巣生検など
- 精液中にまったく精子がいない無精子症やごく少数の精子しかみられない高度乏精子症の場合は、血液による染色体検査や遺伝子(AZF)検査、精巣の生検(組織をとって調べる)が必要になることがあります。
4.男性不妊症の治療方法
- 1. 造精機能障害の治療
- 造精機能障害の人のなかで、精子濃度や運動率がやや低下している場合は、ビタミン剤、漢方薬を使うこともありますが、その効果ははっきりしていません。近年、コエンザイムQ10の内服により、男性不妊患者の精液中の抗酸化能力を高め、精子濃度や運動率を高めるという報告があり、当院ではコエンザイムQ10を処方することがあります。
また、下垂体ホルモンや男性ホルモンが欠乏、あるいは低下している人では、下垂体ホルモン(LHおよびFSH)や男性ホルモンの注射をすることにより、改善できることがあります。
精索静脈瘤の場合は、手術をすることで精液所見が改善することがあります。
精液中に精子がほとんど見つけられない高度の乏精子症や無精子症では、精巣や精巣上体、精管を切開して精子を採取する方法(TESEなど)を行うことによって体外受精を行うこともできます。この治療法の開発により、無精子症の人でも妊娠をすることができるようになりました。
ただし、染色体異常など先天的な造精機能障害による(非閉塞性)無精子症の場合は、精子がもともとない場合が多く、採取できる可能性が低くなります。 - 2. 精路通過障害の治療
- 精路通過障害の人の場合は、手術することで妊娠が得られることがあります。たとえば、ふさがっている精巣上体や精管をつなぎ直す手術などがあります。
精路通過障害による(閉塞性)無精子症の場合は、造精機能は問題ないことも多く精巣や精巣上体、精管を切開して精子を採取する方法(TESEなど)を行うことによって精子を採取できる可能性が高くなります。
また、逆行性射精の治療は、射精後の尿から精子を回収し人工受精などを行います。神経障害が原因の場合、薬物療法を行うこともあります。 - 3. 人工授精と体外受精
- 男性に対する治療で効果がなく、精子濃度や運動率が一定以上保たれていれば人工授精が行われます。これは、精液検査と同じようにマスターベーションで精液を採取し、軟らかい管で女性の子宮に注入する方法です。精子の濃度や運動率が低下している人では成功率は低いのですが、負担の少ない治療法なので一度は行ってみてもよいでしょう。
(詳細は 「人工授精について」をご参照ください)
しかし、3~6回人工授精を行っても妊娠できないかたや、精子濃度や運動率が極端に低い人には体外受精がすすめられます。これは、女性の卵巣に針を刺して卵子を吸い出し、マスターベーションで得られた精子と体外で混ぜ合わせて受精させ、その受精卵を女性の子宮内に戻す方法です。
精子濃度や運動率がさらに低い人では、試験管内で注射針を使って精子を卵子内に注入して受精させる顕微授精(ICSI)が行われます。
(詳細は別紙 「体外受精治療について」をご参照ください。また「体外受精セミナー」を受講してください。) - 4. 勃起障害・射精障害(ED)の治療
- 心理カウンセリングや薬物療法(バイアグラ、レビトラ、シアリスなど)にて治療を行います。
インポテンツや腟内射精障害の人では、マスターベーションにより得られた精子で人工授精することもできます。これでも精子が採取できない人は、精巣上体や精巣から精子を採取して人工授精あるいは体外受精を行います。