ヘパリン療法について

ヘパリン療法とは

1. 抗リン脂質抗体症候群

1983年に抗カルジオリピン(CL)抗体が、不育症との関連を見いだすことにより提唱された症候群で、比較的新しい疾患概念です。抗リン脂質抗体には抗CL抗体(IgG、gM)以外にβ2GPI依存性抗CL抗体や、ループスアンチコアグラント(LAC)があります。また当院では将来診断基準案に含まれると予想される抗フォスファチジルエタノールアミン(PE)抗体や抗フォスファチジルセリン(PS)抗体も抗リン脂質抗体症候群に準じた疾患と考えております。抗リン脂質抗体症候群では、一般に抗リン脂質抗体による血栓の存在により母体-胎児間の血流が悪化し流産・死産を来すと考えられております。また自己抗体である抗リン脂質抗体が直接赤ちゃんを攻撃してしまう場合もあります。しかし、抗リン脂質抗体陽性者が必ずしも不育症ではないことなどその機序は全てが解明されているわけではありません。

2. 抗リン脂質抗体症状群に対するヘパリン療法

未だに不明の点の多い症候群でありますので治療方針も確立されておりません。しかし、血小板の凝集を抑え血栓を作りにくくするための低用量アスピリン療法にヘパリンを併用することで生児獲得率70-80%となることがわかりました。現在この低用量アスピリン・ヘパリン併用療法が抗リン脂質抗体による不育症に対する標準的な治療法となっています。

3. ヘパリンの投与方法

皮下注射用ヘパリンカルシウム剤を5,000単位,(0.2ml)を1日2回、12時間ごとに注射します。期間は妊娠5-6週子宮内に胎嚢が確認されてから妊娠36-37週頃までです。注射は連日2回12時間ごとの原則自己注射となります。この場合、投与開始時に外来にて約3日間、自己注射の指導を行い、注射の技術を習得していただきます。注射の方法とスケジュールは指導時にお渡しいたします。またヘパリン終了直後は胎児の状態が悪くなる可能性もあり、場合により管理入院下でヘパリンを中止とすることもあります。また、抗リン脂質抗体症候群の患者さまには妊娠前から低用量アスピリンおよび、ステロイド(自己抗体の産生をおさえる)作用のあるサイレイトウ(漢方薬の一種でステロイドと同様の作用がある)の内服をしていただきます。妊娠成立後、サイレイトウは中止となり、ヘパリン注射と低用量アスピリンの内服を続けていきます。

4. ヘパリン療法の費用

不育症の血栓塞栓症予防に対するヘパリン療法が2012年1月から保険適応となりました。しかし、注射を使用する治療法であり、以前に比べると半額以下にはなりましたがそれでも高額となります。月一回の自己注射指導管理料(注射用の針代などが含まれます)が2,850円、ヘパリン注射液にかかる費用が7,110円となります。妊娠5週から36週まで行ったとすると約8万円となります。低用量アスピリンや妊婦健診料金は別料金となります。不妊治療・体外受精料金表をご参照ください。

【注意点】
1. 針付き注射器および薬の瓶の処理の仕方について
注射器のキャップと使用したアルコール綿、絆創膏などは通常の燃えるゴミとして廃棄してかまいません。しかし、針付き注射器および薬の瓶は、産業廃棄物として病院にて廃棄します。通常のゴミとしては出せませんのでご注意ください。針付き注射器は、空の500mlペットボトルに入れて病院に持ってきてください。薬の瓶は、ビニール袋などに入れ、別にして持ってきてください。

2. 自己注射の注意事項
ヘパリン皮下注射の後、もんだりして刺激すると皮下出血が生じ、青あざやしこり(皮膚硬化、血腫)のできることがあります。ヘパリン療法中は、出血が起きやすくなることがあります。以下の状態では出血量が通常より増加する可能性があります。

 (1) 鼻出血や歯肉出血など
 (2) 交通事故や外傷を受けた場合
 (3) 抜歯など歯科的処置
 (4) 緊急の出産や帝王切開
 (5) 妊娠とは関係のない疾患で外科的手術を受けた場合

ヘパリンの作用は約2-4時間でピークに達し、24時間以内に消失します。通常、ヘパリン投与後12時間以降であれば影響はないと考えられています。また、ヘパリンは硫酸プロタミンによって中和することができます。
よって、予定の手術であればもちろんのこと、緊急な手術でも対策をとることはできます。抜歯などの処置やその他の外科的手術が必要な場合は、必ず担当医と相談してください。(低用量アスピリンを併用している場合は、ヘパリンとは別に1週間以上の低用量アスピリン休薬が必要です)しかし、転倒による外傷や交通事故などはやはり通常時より危険ですので、十分に注意をしてください。

ヘパリン療法を実施した場合

ヘパリン療法の副作用

ヘパリンには胎盤通過性がなく、また胎児に対しての副作用は報告されていません。母体に対する副作用として出血傾向・血小板減少症があります。出血傾向ですが、この治療法で使用する用量では青あざなど皮膚症状出現の可能性があります。また注射部位の皮膚硬化がみられる場合があります。ほとんどの場合はそのままで問題がありませんが、皮膚症状が強く疼痛を伴う場合は、中止、注射部位の変更、外用薬の塗布など症状に併せて対応して参ります。また投与中の抜歯などは避けた方がよく、歯科治療や外科的手技が必要な場合はご相談ください。なおこの治療法で使用するヘパリン量では消化管出血などの生命が危険となる出血傾向出現の可能性は極めて低いと考えます。血小板減少症の発症頻度は0.1%程です。適宜血液凝固系検査を行い、出血傾向や血小板減少傾向を認めた場合には投与を中止します。

ヘパリン療法を実施しない場合

ヘパリン療法を実施せず、自然に妊娠経過をみた場合、3回流産後の流産率は約30%、4回流産後の流産率は約40-50%にものぼります。

ヘパリン療法に代わる治療法

低用量アスピリンのみを使用する方法もありますが、やはり効果が薄くヘパリンを併用した方が明らかに治療成績が良いことが分かっています。それ以外の不育症に対する検査をして原因が分かればそれに対する治療をしていきます。

同意書の撤回について

同意書をいただいた後でも、同意を撤回することはできます。その場合は担当医と、よくご相談ください。また、同意をしなくても、今後の当クリニックでの治療において不利益を受けることは一切ありません。

不同意の場合の治療の継続について

ヘパリン療法を実施することに同意できない場合は、担当医と今後の治療方法などについて、もう一度よくご相談ください。

緊急時の対応について

ヘパリン療法を実施中に、予期せぬ事態が発生した場合は、担当医が最善の対処を致します。処置内容などについては担当医の判断にお任せください。

質問の機会について

説明された内容についてわからないことがある場合は、ご遠慮なく担当医に質問をしてください。同意書をいただいたあとでも、質問することはできます。